週の終わりの金曜日。ホームルームが終わって、さあ帰ろうかと思っていた僕は、教室を出た所でいきなり黒ずくめの男達三人に拉致された。
ようやく目隠しと猿轡を外された僕はあたりを見回して、連れて来られた場所が見慣れた部屋であることに気が付いた。そこは週に一度の会合で必ず来ている、この学校の生徒会室だった。僕は手足を縛られ、椅子に固定されていて、正面には二人の人影が立っている。夕日の差し込む窓を背にして立っているので、僕の方からは逆光で顔がよく見えない。
「栗田嘉彦くん、あなたは何故ここに連れて来られたか、わかりますか」
背の高いほうの人影が、生徒会長の声で言った。聞き間違うはずも無い、週に一度、この部屋で同じ声を何度も聞いているのだから。
「ちょっと生徒会長・・・何なんですか、これ?」
「例の噂は、あなたも知っているでしょう。」
ぎくり、と背筋を冷たい汗が流れた。
その噂は文化祭も終わり、学校全体がようやく落ち着き始めた十月の半ばになって広まり始めた。男女数人が夜中に学校へ忍び込んでいるという。それも、犯人は生徒らしい。夜遊びならわざわざ学校まで危険を冒してくる必要は無いし、数日に渡って繰り返されるのはおかしい、という怪しさもあって噂は急速に広まった。ついには守衛さんが侵入者を確認した事で、生徒会と風紀取り締まり委員会が事件の調査に乗り出したのだった。
なるべく警察沙汰を起こしたくない学校の思惑と、この事件の本質が男女が集まって不純異性交遊に耽っているのだと確信している風紀委員会の熱意が、かつてない大規模な捜査を実現したらしい。
同じ生徒会でも風紀取締りに興味が無い僕は、その捜査がどんなものなのかはまるで知らなかった。どうせ大したことはないと思っていたのに、まさかこんな方法とは・・・。
「これから風紀取締り委員の権限で、あんたを取り調べるからね。」
生徒会長の隣にふんぞり返っている、僕と同じクラスの三島と言う女子が敵意をむき出しにした口調で言った。どんな権限を持たされているのか知らないのが余計に恐ろしい。
細身で背が高い美人の生徒会長と、寸胴スタイルで背の低い三島とは、外見こそ対照的だが、「不純異性交遊を取り締まる」という強い意志で繋がっている。
今年度の初めに「生徒の本分は学業であり、また学校生活を通して円滑で優良な人間関係を築く事が大切であって、淫らな不純異性交遊や不良行為は断じて認めません」と保護者相手に演説して見せた生徒会長は、教師陣と保護者会の圧倒的な支持を受けて風紀取締り委員会を立ち上げた。三島はその委員会の委員長である。
僕なりに邪推すると、生徒会長の場合は生真面目さゆえの厳格さだろうけれど、三島の場合はちょっと違うと思う。モテない奴の僻みなんじゃないだろうか。理由はともあれ、この二人は不純行為を憎んでいる。自由で奔放なスクールライフを送りたい僕としては、何とかしてこの闇黒の時代を打ち破る救世主が訪れないかと、毎日いろんな神様に祈っている。
昨日は神社にお参りして神頼みをした。
一昨日は、メッカだと思う方角に向かって祈ってみた。
先週は十字架に向かって拍手を打って、しかもお経を唱えてみた。
だからご利益が無いのかもしれない。
「栗田は、星野輝美と中学校で同級生だったらしいですからね。どうせ、誑かされたんですよ。だってこいつ、普段から風紀の取り締まりに協力しないし、軽そうな顔してるし」
三島が偏見に満ちた事を会長に言うので困る。
星野輝美はこの事件の中心人物だとされている女子だ。他にも三組の江藤や、六組の岩井など、普段から委員会が目を付けている『要注意人物』も、名前が挙がっていた。
守衛さんが警備の途中に忍び込もうとしている生徒を見つけて追いかけたのだが、捕まえることが出来なかったそうだ。懐中電灯に照らされた後姿が星野輝美にそっくりだったと言う。岩井や江藤は同じく夜になってから学校の傍をうろついていた所を目撃されたそうだ。
「俺は関係ないよ」僕は言った。「星野さんとだって、中学の時に一年だけ同じクラスだったけど、別に仲良かったわけじゃないし」
本当は仲良くしたかったけれど、出来なかったのだ。あんまりにも可愛い人だったから、恥ずかしくて声も掛けられなかった。僕はナイーブだから。
「三組の江藤とも仲良いでしょう」
「そりゃあ、同じ部活だから」
「何か隠してるんじゃないの?」
三島がぐいっと顔を近づけてくる。あまり長く見続けていたい顔じゃない。
「知らない、知らない、知らない」
「吐けば楽になるんだから・・・」
刑事ドラマの尋問みたいだ。
「先週の水曜日、夜の八時から十時過ぎまでの間、どこで何をしていたか教えてくれる?」
三島とは対照的に生徒会長は落ち着いた声で言った。感情的になっている三島よりも、説得しやすそうだ。
「家でテレビを見てました」
「またそんな嘘を」
「三島はちょっと黙ってろよ」
「がるるるるる・・・・」
今にも噛み付いてきそうな勢いだ。
「三島さん、落ち着きなさい。それで栗田君、それを証明する人は?」
「家族ですよ。母さんも居たし、親父はまだ帰ってなかったけど、弟もいたかな。九時からは水曜ミステリー劇場を観てたんだ。ストーリーも覚えてる。三津川警部が崖で犯人を追い詰めるんだ。犯人が自殺しようとしたんだけど、何故か突然現れた猪に突撃されて死んじゃっておしまい。原作だと車にはねられて死ぬはずだったんだけど、スポンサーがポヨタだったから設定が変わったんだろうって、母さんと話したのも覚えてる」
「ずいぶん詳しいじゃない。会長、これは逆に怪しいですよ」
三島はそう言って、僕の事を猜疑の視線で睨みつける。冗談じゃない、そんな事を言われたらこっちはどうしようもないじゃないか。
「大体、なんで僕なんですか。怪しまれるような事、一回でもしましたか?」
「江藤に尋問した時に、あんたの名前を吐いたのよ。栗田に聞けば何か分かるってね」
あの野郎、覚えてろ。
「それはあいつが逃げる時の悪い癖ですよ。前もあいつ、部活の時にガラス割ったのに先生には他の後輩が割ったんだって嘘ついたんですから」
「そう言えばそんな事もあったわね」
二人とも思い出してくれたようだ。
「でも、まだ疑いが晴れたわけじゃあないんだからね。あんたはいつも、風紀の取り締まりに非協力的だし、星野輝美に惚れてたって事も裏が取れてるんだから」
いきなりそんな事を言われて、僕はうろたえて顔を真っ赤にした。
「だっ、誰がそんな事を」
「江藤に決まってるでしょ」
またあいつか!
「あんたは中学時代に星野輝美に惚れてて、自分は関係ない掃除も手伝ったし、宿題をあの女が忘れた時にもノートを見せてやったんでしょ。それに、体育の授業で創作ダンスをやった時には同じ班にはなれたけど星野のパートナー役を他の男子に取られて悔しがってたっていう話も、しっかり話してもらったんだからね」
いくらなんでもプライバシーの侵害だ。
「だから今回も星野輝美に誑かされてるに決まってるわ」
「濡れ衣だ!」
「三島さん、あまり彼を刺激しないで」
刺激とかそういう問題じゃない。
「大体、星野さんは三組の岩井と付き合ってるって聞いたから、もう諦めたんだ」
「岩井・・・あの女たらしね」
その点だけは三島に同意できる。
「ちょっと・・・いや、けっこう顔がイケてるからって女の子をとっかえひっかえ遊んでるっていう最低男・・・ま、星野みたいな尻軽女とは同類だから気も合ったんでしょうね」
「星野さんは悪い人じゃないよ」
「それが騙されてるって言ってんの。あの女、可愛いからって調子乗ってんのよ。しかも昼休みに、いつも男子連中と一緒につるんでるし、しかも教師にまで色目使って・・・あちこちでバイトやって小金稼いでるのも怪しいわ」
やっぱり僻みだ。
「バイトは仕方ないだろ。星野さんのトコは母子家庭だから、バイト代を家計に入れてるんだ。星野さんがケータイ持ってないのも、お金を自分のために使ってないからなんだよ」
「そういう、いかにもな美談って逆に怪しいのよね。いかにも悲劇のヒロインを演じて同情を誘ってるみたいじゃない」
「三島さん、それは言い過ぎですよ」
会長に諭されて三島は視線を床に落として、すいません、と小さく言った。
「まあ、どうやら栗田君はこの件については、深くは関係してないようですね」
無関係と言い切ってもらえないのが悲しい。
「それでもまだ疑いが晴れたわけじゃないんだから。江藤があんたの名前を出したのは事実だし。侵入事件があったのは水曜日だけじゃないし・・・疑いを晴らしたいなら、身の潔白を証明してもらわないと」
三島が変な事を言った。
「身の潔白って・・・何だよ」
「あんたも風紀取締り委員に入りなさい」
「嫌だ!」
生徒の大多数から嫌われている風紀委員会だ。そんなのに入ったら、これまで築いてきた僕のクラスでの人間関係が一瞬にして崩壊してしまう。
「じゃあ正式に委員に入らなくてもいいわ。この件についての調査をするから、あんたも協力しなさいよ」
「協力? あんまり表立った事はしたくないよ、みんなに勘違いされたくないから」
「うちは人手が足りないのよ。だからこうして、先生達にも手伝ってもらっているんだから」
三島は顎で、僕の後ろに立つ黒ずくめの男達を指した。振り返って見ると、三人の黒ずくめは覆面を取る。
「岩室先生に小島先生に田中先生まで・・・」
三人とも体育教師だった。田中先生は僕のクラスの担任で、生活指導の担当でもある。確かに風紀取締りには一番協力的で、しかも力仕事の出来る人たちだ。
「拉致って犯罪ですよね、先生?」
「あんたには裏方の仕事をやってもらいたいのよ」
僕の言葉は無視された。
「それか、生徒への聞き込み調査ね。どっちがいい?」
どちらか選ばなければ帰してもらえなさそうだ。聞き込みをすれば顔を晒すことになる。書類の整理だろうが三島の肩揉みだろうが、風紀取締りに協力した事がみんなにばれないのならいい。
「・・・裏方でお願いします」
言った途端、三島がにやりと悪魔のように笑った。
「ふふん、裏方ね。それじゃあ今日からさっそくお願いするとしましょうか」
何故か先生達も怪しい含み笑いを洩らした。
夜。僕は学校の校門前に居た。
正確に言うなら、校門前にある自販機の陰だ。しかも三島と一緒になって身を隠しているから、狭苦しくて息が詰まりそうになる。
「あんまり押すなよ、三島」
「あんた、もうちょっと痩せたらどうなの」
その台詞はそっくりそのままお返しするよ。
「ちょっと、胸に肘が当たってるじゃない!」
「え、腹の肉の間違いじゃないか?」
「がるるるる・・・」
「わかった、わかった。怒るなって」
こんな所で三島とくっついてるのを誰かに見られたらたまったもんじゃない。変な噂が立ったらそれこそ、僕は自殺するか転校するかのどちらかだ。
夜の学校で侵入者を捕獲する。
三島が言った『裏方の仕事』とは、こういうことだった。確かに聞き込み調査ではない。ただ、これは『裏方の』仕事じゃなくて、『裏の』仕事だ。
騙された感がしないでもないが、聞き込み調査よりはマシだと思って泣く泣く了承した。母さんには、友達の家に泊まることになったと嘘をついている。
見張りに立っているのは全部で七人。僕と三島が学校の正門前で張り込み、山室先生が裏口に潜み、小島先生は駅から学校へ上がってくる坂道の途中で監視を続けていて、田中先生は校舎の玄関に身を隠している。あとは守衛さんが二人、学校の校舎内部を順次見回り続けている。
風紀委員会が人手不足だという話は本当のようだ。
「まさか、毎晩見張ってるのか?」
「一応、交代制でやってるの。それよりあんた、縄は持ってきた?」
「なわ?」
「決まってるでしょ、星野輝美をとっ捕まえるための縄よ」
そんなもん持ってくるわけがない。
「いやいや、いくらなんでもやりすぎだろ。縛ったりしたら犯罪だぞ」
「誰が縛るって言った? 縄の先を輪っかにして、逃げる星野輝美に向かってビューンと」
「お前いつからカウボーイになったんだ?」
「ふんっ・・・まあ、冗談はこれくらいにしておくわ」
三島は『学校防衛作戦』と描かれた紙を広げると、ペンライトの光を細く絞って紙を照らした。学校の見取り図だった。
「これまでの調査から、侵入拠点は三つに絞り込まれてるわ。一つは正門の通りを曲がったところにある、樫の木の陰。フェンスに土が付着していたから、きっと乗り越えているんだと思う。もう一箇所は校舎裏・・・山室先生が張り込んでいる所ね。ここは巧妙にも植木に隠れたフェンスの下部に抜け穴が空いていたの」
「抜け穴?」
「ウチの学校、変質者防止のためにフェンスを高くしてあったけど、頑丈には出来てないのよ。どうやらペンチか何かを使ってフェンスに穴を空けたみたいね」
どうも話が穏やかじゃない。犯罪一歩手前だ。
「それで、三箇所目はどこなんだ?」
「あんたやる気になってきたじゃない」
「スパイ映画みたいで面白そうだからね」
ふふん、と三島が笑った。「三箇所目はね・・・」と言いかけた三島が、急にペンライトの明かりを消すと、正門を挟んだ先の曲がり角の方をキッと睨んだ。
「誰か来たみたい」
まさか。あの道は駅から上ってくる坂道だ。小島先生が監視しているのをどうやって潜り抜けてきたんだ。
「いい、相手の姿を確認したら、即座に確保に移るからね。それまでは、音を立てないで」
三島は音を立てないように紙を懐にしまうと、自販機の陰からそっと顔を出して様子を探った。正門の前は電灯が照らしているけれど、僕らが潜んでいる場所までは光が届いていない。おそらく相手に僕らの姿は見えていないだろう。
よほど警戒しているのか、なかなか姿を見せない。しかし、不意に足音が近付いてきた。正門の方からだ。どうやら相手の方が先に痺れを切らしたらしい。
暗闇から電灯の照らす場所にゆっくりと姿を現したのは、僕も三島も見慣れた相手だった。僕らと同じ生徒会のメンバーだったのだ。
「裏切ったわね!」
突然、吼えると同時に三島は大地を蹴って闇から飛び出すと、その外見からは想像もつかない獲物を追う肉食獣のような勢いで侵入者に肉薄した。驚き、慌てて逃げようとした相手の背中に飛び掛ったかと思うと、たちまちその場に組み伏せていた。恐ろしい恐ろしい。
気弱な太っちょ男子、二宮は三島に組み伏せられたまま、涙を流していた。
「栗田、ちょっとこれ持ってて」
三島は僕に『学校防衛作戦』を渡すと、ウエストポーチから何か取り出した。
・・・・・・縄だよ。
こいつ本当に持って来てたのか。
二宮はあっと言う間にぐるぐる巻きにされた。可哀想に、さっきから三島を見る目が恐怖の色に染まっている。三島は、身動きの取れない二宮を尻の下に敷いてどっかりと座り込むと、田中先生にケータイで連絡を取った。
「栗田君、栗田君」
二宮が僕に助けを求めてくる。
「ねえ、栗田君お願いだ、助けてくれ。星野さんに頼まれて、仕方なく来たんだ。本当だよ。だから・・・」
「悪いな二宮。助けてやりたいんだが、俺も後には退けない状況なんだ」
「まさか栗田君が委員会に味方してるなんて・・・」
「言っておくけど、メンバーじゃないよ。強引に引き込まれたんだ。こっちだって被害者なんだよ」
「なら・・・っ」
「駄目だ。お前らをとっ捕まえない限り、俺に自由は与えられないんだよ」
どこかの映画で観たようなやりとりを続けていると、連絡を終えた三島が戻ってきた。
「二宮が生徒会を裏切ってるんじゃないかって薄々は感づいてたけど、まさか侵入者一味だとは思わなかったわ」
「なんで二宮が怪しいってわかったんだ?」
「女の勘よ」
当てになるのかならないのか。
「ビビりの二宮が、不法侵入なんてやるとは思ってなかったけどね。まあ、尋問しやすい相手が捕まってくれたのはありがたいわ」
そして彼女は悪魔のような笑みを浮かべる。こいつはサディストに違いない。
「知らない、知らないってば。僕は・・・僕は知らない」
「答えられる事から言えばいいのよ。別に難しいことじゃないでしょ、知ってる事を喋るだけ喋ればいいんだから。まずは首謀者からね。誰に言われてここに来たの?」
「それは・・・星野さんに」
「やっぱりあの女か。それで、目的は・・・聞くまでも無いわね。尻軽女に誘われて男が集まってやることなんて、どうせ不純異性交遊に決まってるわ」
二宮は何も答えずに俯いて、地面に視線を落とした。
「おい、そうなのか?」
彼は僕の問いかけに答えないで、泣いてばかりいる。まさか本当に・・・。
「残念だったわね、栗田。これが星野輝美の正体よ」
三島が、残酷にも宣告する。
考えてみれば、女たらしの岩井と付き合い始めたと聞いた時から諦めてはいたのだ。いつまでも子供のままじゃない。当然と言えば当然だ、みんな大人になっていくんだから。それでも、初恋の相手である星野さんに対しては、まだ僕は自分勝手な理想を抱き続けていたかった。まだ清純なイメージを崩したくなかった。勝手な願望だけれど。
「まあ、仕方ないよ。星野さんと俺とは、縁が無かったんだ」
もしも僕がもっと早く、星野さんに告白でもしていれば、今は少しでも変えられたのかもしれない。
「片思いが無残に散って悲しんでるところ悪いけど、まだ仕事は終わってないんだからね。今夜一晩は気を引き締めててよ」
「ああ、わかってる。わかってるよ」
一度深呼吸をしてから、僕は二宮に向き直った。涙目の二宮は、今までと違って憎らしく見えた。
「それで、他の奴らはいつ来るんだ。いや、そもそも誰が来るんだ」
「僕のほかには、江藤君と岩井君だよ。後は知らない。時々、一年生の子も来る」
「一網打尽にしてやるわ。それで、あんた以外のメンバーはいつになったらここに来るの」
「ここには来ないと思う。多分、もう中に入ってるよ。八時半に集合する予定だったんだ」
僕は腕時計を見た。針は午後八時三十五分を指している。
「他の入り口は見張ってるわよ。校舎裏もしっかりとね」
「校舎裏? そこは違う。裏口のところにあった穴は、委員会の見張りを引き付けるために用意したって岩井君が言ってた」
フェイクまで仕掛けている。
「本当は、駅の方からぐるっと回って学校の反対側に出るんだ。そこのフェンスがちょうど忍び込みやすくなってるんだ。その後に、音楽室前の廊下から中に入るの。そこだけ鍵を空けておくんだ」
三島は舌打ちをすると、二宮を睨み付けた。
「つまり、アタシたちはまんまと騙されたって訳ね。ふふん、いいじゃない。何としても今夜中にけりをつけてやるわ。二宮は田中先生に引き渡す。栗田、あんたは一緒に来なさい」
「どこに?」
「もちろん校舎内部よ。さあて、二宮。星野達がどこにいるのか知ってるんでしょ。さっさと吐きなさい!」
「お、屋上に・・・」
何でまたそんな場所で。
どうもこいつから話を聞いていると、余計に星野さん達の目的がわからなくなってきた。だが三島はそんな疑問を抱くことも無く、闘志を燃やした瞳を校舎に向ける。
「よーし、いよいよ大詰めね。行くわよ、栗田っ! あいつらぎっちょんぎっちょんにしてやるんだから!」
ご意見、ご感想をお待ちしています。